オフシーズンに力を貯める、山梨県勝沼市のブドウ畑

日本ワイン

さあ、旅に出よう。日本一のブドウの収穫量を誇る、山梨県だ。

新宿駅からバスで2時間ほどで行くことができて関東に住んでいる人にとっては割と近い。

1月はオフシーズンということもあり、静けさが漂っている。畑はまだ冬季剪定をしていないところも多くあり、昨年に収穫から醸造と素晴らしいワインを造るためにめまぐるしく働き、つかの間の休息を取っているように伺える。

ちなみに葡萄樹は非常に樹勢が強い為、収穫し葉が散った後の冬場に要らない枝を切り落とし形を整える冬場の剪定作業が必要になる。

ルミエールワイナリーの剪定後の畑。切り落とした枝が綺麗にまとめてある。棚仕立ての葡萄樹もすっきりして、また今年も全体にしっかりと栄養を行きわたらせて美味しい実を造る準備はバッチリだ。

ほかの畑だけど上から見た様子。残った枝がはっきりわかるね。

これが剪定がまだの畑。散髪前の髪がボサボサな状態だね。

葡萄は樹勢が強くてどんどん枝が伸びるから、

次の年に向けてどの枝を残すかを決める冬季剪定や、

どの実に栄養を集中させるか決める夏季剪定がある。

一仕事終えた畑を見つつ、今回は試飲のできるワイナリー向かう。

一件目は「岩崎醸造株式会社(ホンジョーワイン)」

岩崎醸造株式会社
岩崎醸造は、日本ワインの銘醸地である山梨県勝沼に位置する老舗ワイナリー。地元では「ホンジョーさん」として親しまれ、株主農家が丹精込めて栽培したブドウから造ったワインは日本ワインコンクールで高評価を受けています。

昭和16年(1941年)に醸造組合として設立し、のちに株式会社として今に至る。ワイナリーツアー、ワイナリー立ち上げの為の研修、日本ワインコンクールでの受賞など多岐に渡り活躍している。

建物に入ると持ち帰り用のワインや、常時12種類ほど有料テイスティングができるマシーンがある。

この時は閑散期ということもあるのだろうが女性スタッフが丁寧にワインのことを教えてくれた。親身に接客をしてくれたので、初心者の方も気を張らずに行ってみるといいかも。

私がまず最初にテイスティングしたのは

「ホンジョー 甲州ドライ 大樽貯蔵」

写真左

岩崎醸造のフラグシップにあたるワインだ。

名前の通りだが5000Lもの大樽で熟成。この大樽は昭和19年製で以前までは17基あったが今は7基しかなく、稼働しているのは1基のみとのこと。また継ぎ足して醸造をしている為にNVとなる。

ラットコメント

液体は淡い黄色。エッジは薄く長期の熟成間は感じられない。香りは若々しい柑橘系、味わいはラムネっぽさのようなチョーキーなミネラルが感じられる。火打石の要素、ほのかな柑橘の皮、全体的に心地よい鋭さがある。アフターには少し金柑のような甘味。

続いては先ほどの写真の右側にもある

「ホンジョー 甲州 シュールリー2023」

シュールリーとは葡萄果汁をワインに変える醸造過程で、活動しなくなった酵母菌と液体をしばらく一緒に静置し、さらに味わいの要素を加える造り方。どのくらい静置するとシュールリーになると言う明確な基準はなく、ワイナリーごとに独自に決めている。1週間くらいのところもあれば、2週間以上、さらにもっと多くの期間をシュールリーするワイナリーもある。

今回の甲州はどのくらい期間シュールリーをしているのか不明。

ラットコメント

色は先ほどの大樽とほとんど変わらない。レモングラスのような爽快感のある香り。味わいはシャープさ、酸の強さがよりハッキリしている。シュールリーからの要素か、日本らしい隠れた旨みが感じられる。アフターにもレモンのような活き活きとした酸を感じる。余韻は浅いがボディ感はある。

スタッフさんいわく、「2023年は7月の実が成長する時期に雨が少なかったことでボディが弱い」とのことだが、なかなか良く感じた。

最後はとっておきのを頂く

「シャトー・ホンジョー 熟成甲州 玉響 Chateau Honjyo Matured Koshu “Tamayura” 2001」

10年以上ともなると普通のブドウだとワインの味わいがヘタレしまう。

“Tamayura”は甲州の可能性を信じ、長期間の熟成を経てさらなる表現を目指して造られたのだと思う。毎年造られるわけでは無い。

名前の由来は柿本人麻呂の和歌から取ったそうな。

柿本人麻呂は朝後(きぬぎぬ:平安時代に多く登場する題材で、一夜をともにした男女が翌朝に別れる情景や心情を詠んだもの)を思わせるような歌があり、源流とされる作品が多かったそう。

「我(わ)が背子(せこ)が朝明(あさけ)の形(すがた)能(よ)く見ずて今日(けふ)の間(あひだ)を恋ひ暮らすかも」

意味「私の夫が朝早くお帰りになる時の姿をよく見ずにしまって、一日中物足りなく寂しく思い、恋しく暮らしています。」

また玉響には『翡翠や瑠璃などの美しい宝玉が触れ合ってかすかな音をたてるところから生まれ、転じて「ほんのしばしの間」、「かすかな」、「あるかないか」』というような意味もあるらしい。

非常にロマンチックな名前だ。

ラットコメント

色は濃い黄色、きれいな甲州の薄黄色が時を経て凝縮された美しい色をしている。

熱燗のような甘い揮発の香りの中に、かりんや金柑のニュアンスがある。少しセメダインのような香りが混ざる。

味わいはマーマレードのようなジャムを思わせる甘味があり、そこに少しナッツの要素がある。

かなりの年月が経っているのに果実味が残っていて驚いた。

この時は綺麗なお姉さんから詳しく色々と聞けて良かった。その人もお酒を幅広く飲まれる方で、自分なりの説明も加えてくれて、聞いていて楽しかった。

次に向かったのは

株式会社ルミエール

Lumiere Winery - 株式会社ルミエール / TOPページ
ルミエールワイナリーは、山梨県の豊かな自然の中でワインの製造販売を行っています。

ワイナリーに隣接した畑で色々な葡萄を栽培しているのがわかる。芽が出て、葉が付き、実がなり、色づきだした景観が楽しみだ。

ホテルの建設予定もあり、出来たら泊まってみたいな。

ショップでは有料でテイスティングができる。ずらっと20種類!

ここ1件でも十分満足できるね。

気になるものが多かったけど一番に選んだのはやはり甲州。

甲州でも出来立ての新酒。

「ルミエールヌーボー 2024 アートラベル 甲州」

ラットコメント

白に近い透明な色合い。香りはマスカット、角砂糖を入れた紅茶のようなニュアンスもある。

味わいはハツラツとした元気の良い酸と純粋な果汁からくるほのかな甘味。複雑さは無いが甲州らしいキレや軽さがあり、さっぱりと楽しめる。鯛の刺身なんかを塩とレモン汁を振りかけて、それに合わせてこの甲州ヌーボーを飲みたい。

次はさらに甲州を深ぼる為、

「甲州シュールリー 2023」

このシュールリーは春まで澱引きしないとのこと。

ラットコメント

やや黄色がかった透明。どこかフランスのセミヨンを思わせるような酸っぱい柑橘香。

酸はあるものの先ほどのホンジョーと比べてやや穏やか。ミネラルはそれほど強くなく、全体的に少しやわらかくてまとまりのある印象を受けた。樽は使っていないようなので恐らくシュールリーから来る、ややアーモンドのようなニュアンスが少しだけ混じる。

お次はすごく気になっていたこのワイン

「光 甲州 2021」

2018vtはデキャンタ―・ワールド・ワイン・アワード (DWWA)2021で97pointsを獲得し、Platinum medalを受賞。世界のワインの中にこの「光 甲州」が採用されたってのが素晴らしいね。ちなみにこの時、日本の白ワインでプラチナ賞はこのワインともう一つ「白百合醸造の ロリアン 勝沼甲州2019」も受賞している。日本以外だとシャンパーニュやブルゴーニュ、イタリアのアルトアディジェなんかの高級白ワイン産地のものやスペインのポートなどもあり、総勢79点の受賞だった。

またこの「光 甲州」は神の雫でも取り上げられており、甲州を語る上では欠かせない存在だとわかる。

ラットコメント

照明がオレンジがかっていて、はっきりと色合いがわからないがやや黄金がかった黄色

香りはスモーキーな印象をうける。ナッツ類にカカオが少し、アプリコットやリンゴなど。複雑さが伺える。口に含むと青りんごのフレッシュさ、赤りんごの甘酸っぱさ、若い洋ナシ、ほのかにナッティーであり全体的に上品で爽やか、甲州らしい酸の切れはあるものの、綺麗にまとまっている。

この時点で結構酔っぱらってしまっていた。

最後に赤を飲んでみよう。

「シャトールミエール キュベスペシャル(赤) 2014」

ちょっと舌休めくらいの気持ちで飲んだけど、、、

う、美味い

エッジは少しオレンジがかっている。キレイな紫

香りは赤と黒のベリー系、ジャムのような甘い香りも混ざる。リコリスやシダの森の香りも混ざっている。味わいはしっかりとした芯のある酸に、黒スグリの果実、ビターなカカオがアクセントに入っている。重厚感があり上品なフランスワインにも負けない味わいを感じた。

最後にスタッフさんに2023年の甲州の出来を聞いてみたところ

「2023年は天候に恵まれた。台風も来なかったので収穫を遅らせた。ボリューム感があるが、酸はやや低い年」とのことでした。

勝沼に来たら、やはりここは見落とせないでしょう。

シャトー・メルシャン 勝沼ワイナリー

勝沼ワイナリー|行く見るふれる|シャトー・メルシャン
『シャトー・メルシャン』は、長い歴史を持った「日本ワインの原点」ともいえるブランドです。その味わいは、造り手から飲み手へと手渡されたとき、多様な物語を醸し出します。私たちは、その物語をより輝かせるために、「原点」の座を守りつつ、「最先端」で...

シャトー・メルシャン 勝沼ワイナリーは、予約不要でお楽しめるワインギャラリー(テイスティングカウンター、ショップ)、ワイン資料館等の施設を備えた、シャトー・メルシャンの基幹となるワイナリーとのこと。

ギャラリーに入ったところには代表ワインの土壌や特徴がわかるオブジェがあり参考になる。個人的にはこの土壌、土のサンプルがあるのが非常に面白い。黄色砂質や粘土質などと言われてもピンとこないが実際の土を見ることができるので、こういう土壌だとワインにこういったニュアンスが出るんだなと想像できて良い。

今回はアイコンシリーズ白ワイン2種のテイスティングを頼んでみた。2種類のワインは「岩出甲州 オルトゥム 2022」「シャトー・メルシャン 北信左岸シャルドネ リヴァリス2020」

メルシャンの最高ラインのアイコンシリーズにて甲州をどのように表現しているのか、また国際品種であるシャルドネをどのように日本らしく仕上げたのか気になり選んだ。

シャトー・メルシャンのブランドポートフォリオは、「アイコン」、「テロワール」、「クオリティ」の3層から構成。世界トップクラスのワインに並ぶ「アイコン」、産地の個性を表現した「テロワール」、究極のバランスをめざした日本ワイン「クオリティ」とのことだ。

まずはやはり甲州から

「岩出甲州 オルトゥム 2022」

透明に近い淡い黄色。香りから石灰感、若い白桃のような果実、フレッシュアップル。飲み口はダイレクトにしっかりとした酸が感じられる。だがそれが心地よい。酸があることによりキレが感じられながらも他の風味も強く膨らみもある。

今日飲んだ甲州の中で一番ポテンシャルの強さを感じる。力強い。

酸がありスッキリしていて少し線が細いというイメージを甲州葡萄に持っていたが、そのイメージを払拭した。ここまで力強く、尚且つ甲州の良さを残しながら完成させることができるのか。

そういえばホンジョーの人が2022年は良い年だと言っていたな。

ラムネを口の奥で味わったような酸っぱさがあるので好みはあると思うが、私は大好きだ。

次は世界品種のシャルドネだ。

「シャトー・メルシャン 北信左岸シャルドネ リヴァリス2020」

エッジに少し緑が伺える黄色。香りはマンゴーや白い花の蜜のような甘い香り。味わいはアロエのような独特な透明感が感じられる。オルトゥムを飲んだあとだからか、この時はそこまでの力強さを感じられなかった。寒かったからかもしれない。手の体温で少しワインの温度を上げてみる。

北信左岸シャルドネ リヴァリスに関してはまた改めて飲んでみようと思う。

ちなみにこのメルシャンではスタッフさんから「甲州は2022と2023ではそんなに差はない。商品によっては2022は賞を取っているが、2023は取っていない。また逆のものもある。2024年に関しては雨が少なく豊作で出来も良い。」とのこと。2024年の甲州ワインが出来上がるのが楽しみだ。

予約なしのテイスティングとさっと外観を見るだけだったが、今度はゆっくり資料館やワインメーカーズツアーなどに参加してみたい。

3つのワイナリーから甲州の出来を聞いたがそれぞれワイナリーによって感じていることが多少違っていた。勝沼においてもミクロクリマ(微小気候)が存在し、それぞれのワイナリーが感じていることも違って、またそれにより醸造も多少変化し出来上がるワインも違ってくる。ブルゴーニュのピノノワールやドイツのリースリングのように、隣の畑になるだけで変化し多様に富み世界的に認知度が高いように、この土地の甲州もさらに評価が高まる未来があることを知った。

宿のある甲府駅まで移動し、ゆっくりと晩御飯。いろんな土地にいくとまず和食やお寿司を食べてみたくなる。ということで

「寿司と酒それと車海老」

お腹一杯で満足。残念ながら日本ワインのグラスは無く、ビールと日本酒で楽しみました。

これで終わることなく、すごく気になっていたところが。

なんと無人のワインバー?その名も

「ムジン」

ムジン (甲府/ワインバー)
★★★☆☆3.03

他に誰か一人で来ている人がいるかなと期待していたけど、誰もおらず。

私一人の貸し切り空間で今日のことを振り返りながら哀愁漂わせて物思いにふけってました。

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